とある展示会の宣伝ポスターを見て、大阪心斎橋にとても小さな美術館のあることを知りました。
その名は、大阪浮世絵美術館です。
私が浮世絵、殊に北斎好き (好きなのは、なにも浮世絵や北斎だけではありませんが・・)であることはここやここでも触れましたが、どうやらこちらの美術館で「生誕260年記念企画 葛飾北斎祭」が開催されているとのこと、さっそく訪れました。
この美術館は2019年7月に開館したごく新しいもので、日本が世界に誇る浮世絵版画作品を間近でじっくりと楽しむことのできる施設です。
浮世絵の四大巨匠である葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽をはじめ、ここ大阪の美術館らしく大阪や京都にゆかりのある浮世絵版画も多数展示されているとのこと。
浮世絵の奥深いところは、浮世絵は著名画家が一人で完結させるものではなく、北斎等を代表とする絵師が趣向を凝らして書き上げた絵をもとに彫師が版木を彫り、摺師が摺り上げて初めて版画として成立するものです。なお、絵師、彫師、摺師の組合せが版画の仕上がりを左右するわけですが、これを指揮、今風にいえばプロデュースするのが版元で、当時の敏腕プロデューサーの一人に蔦谷重三郎がいます。書店、レンタル店のTSUTAYAの名は、彼に因んでいるそうです。
注)
浮世絵には版画と肉筆画の2種類があります。前者は上記の通りの分業で完成されますが、後者は絵師が下絵に色彩を施したもので、基本的には絵師一人で完結します。以後、版画の浮世絵を浮世絵(版画)と表記します。
私の好きな浮世絵(版画)は数ありますが、どれも「北斎の」「広重の」と、絵師の名ばかりが表に出ます。しかしながらいくら絵師の絵がよくとも、版木が雑だったり刷りが甘ければ浮世絵(版画)としての仕上がりは二流以下となり、絵師の絵が活きることはないでしょう。
今回はこの美術館の学芸員の解説で、「摺師」の技の一つを間近に楽しむことができました。
その技は、「空刷り」と呼ばれる技法です。版木から色を転写する際、馬連(ばれん)で平易になぜるのではなく、摺師が自分の着物越しに肘などで強く刷り着物などの模様を転写させることで画に立体感を持たせる技法です。
今回の展示でこの空刷りが特に見事に表現されていたのが、以下に示した安藤広重の絵になる「浪速名所図会/安井天神山花見」でした。描かれているのは桜の木ですが、うっすらピンクに色付いてはいるものの、遠目には枯れ木の下でどんちゃん騒ぎをしているようにしか見えません。
ところが、ピンク色の部分をギャラリースコープ (単眼鏡)で拡大すると・・・。
なんと!、満開の桜が咲いているのです!
そう、枝の周囲には花模様の凹凸 (エンボス)が表現してあり、それがピンク色と相まって満開の桜を表現していたのです!
こうした、肉眼では観察し難い世界を垣間見ることができるのが、単眼鏡を用いて美術品を鑑賞する楽しみの一つです。
私の愛用している単眼鏡をこちらで紹介しています。わけあって、これは2代目です (初代は、紛失しました・・・)
そのほか、御上洛東海道/東海道京都 紫宸殿 (歌川芳盛画)、御上洛東海道/東海道名所之内 京加茂 (二代国貞画)、冨獄三十六景/東海道江尻田子の浦略図 (葛飾北斎画)、冨獄三十六景/五百らかん寺さざゐどう (葛飾北斎画)で、見事な空刷りを愉しむことができました。
摺師の技法はなにもこの空刷りだけではなく、正面刷り、雲母刷り、金銀刷りなど、多岐に亘ります。こうした特徴的な技が展開された浮世絵(版画)を鑑賞する機会があった際、改めてご紹介します。
ブログの更新が滞っていたため、大阪浮世絵美術館での今回の企画展「葛飾北斎祭」はとうに終わってしまいましたが(汗)、この企画展での作品一覧表をこちらに示します。
この企画展のあと、2021年3月2日から同8月29日までの間は「巨匠の愛した北斎、広重」と題した企画展が行われているようです。江戸時代の絵師である北斎や広重の絵や技法、モチーフがゴッホやモネ、ゴーギャンといった遠くヨーロッパの印象派の巨匠たちに強い影響を与え、ジャポニズムなる一大ブームを巻き起こしたことはつとに有名ですが、その代表的な60余点の作品を間近で鑑賞できるそうです。近日中に、訪問します。
この美術館のパンフレットで、2020年夏に「HOKUSAI」なる映画が公開されていたことを知りました。北斎をモチーフにした映画としては緒形拳主演の「北斎漫画」しか知りませんでしたが、こちらもぜひ観てみたいものです。
今回は、ここまで。
次の機会にお会いしましょう!
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