クルマの安全運行には、1にタイヤ、2にブレーキの点検、整備が欠かせません。
今回は、BMW F10のフロント、リアブレーキの分解整備の内容を紹介します。
今回の分解整備の内容は、キャリーパー脱着、パッドの点検、各所のグリースアップとなります。ブレーキ関連ブーツ類の交換は、別の機会に紹介します。
まずはタイヤ脱着の基本、クルマをジャッキアップし、リジッドラック(ウマ)をかけます。ただし、ジャッキアップ前、つまりタイヤが接地しているときにホイールボルトを緩めておいてください。タイヤが浮いてからだと、ホイールが空転するばかりでホイールボルトを緩めることはできません。
余談ですが、スタットボルトの突き出ていないドイツ車の場合、タイヤの脱着にはホイールセッティングボルトがあると労力を大きく削減できます。
上記セッティングボルトは私のF10には合致しますが、ほかのシリーズのBMW、あるいは他欧州車に合致するとは限りません。ご自分のクルマのホイールボルトのサイズとピッチを確認の上、適切なものを選択ください。
さて、フロント側の分解整備に入りましょう。
まず、ブレーキキャリパーを固定しているバネを取り外します。マイナスドライバーでこじれば外せますが、勢い余って顔などに飛んでくると危険ですので、外すときは片手を添えて飛ばないようにしてください (写真撮影の都合上、手を添えていませんが、実際に外すときは安全配慮しています)。
それから、キャリパーの奥(エンジン側)に手を伸ばし、キャリパースライドピンを保護するプラスチック製カバーを外し、7㎜のヘキサゴン(六角レンチ)で上下2本のスライドピンを外します。スライドピンに錆や傷がないことを確認します。異常があれば、即交換です。
スライドピンを外せば、キャリパーをずらすことができます。
キャリパーをずらして外すと、ブレーキパッド2枚も一緒に外れてきます。手前(ホイール側)のパッドはキャリパーからすぐに外せますが、奥(エンジン側)のパッドはパッドに装着されたクリップでブレーキピストンに固定されていますので、手前から奥にひっぱり、ピストンから抜き取ります。
パッドの厚さが規定以上であること、パッドのライニング部にひび割れ等がないことを確認します。これも、異常があれば即交換です。
ブレーキパッド、およびキャリパーにブレーキパッドグリースを塗布します。このグリースは摺動性を向上させるという意味よりも、パッドとキャリパーのあたり面に粘度の高いグリースを介在させることで振動を吸収させる、つまりはブレーキの鳴きを防止する意味の方が大きいです。このことを念頭に、パッドは裏面のうちキャリパーと接する部分と耳部分 (キャリパーと嵌合する部分: 青矢印)、キャリパーはパッドの耳部分が入る部分 (赤矢印2ヵ所、およびその対面2ヵ所)にブレーキパッドグリースを塗布します。
ブレーキパッドグリースを塗布したパッド2枚、およびキャリパーを装着し、元の通りに組み上げます。
ブレーキパッドを新品に交換する場合、ピストンを奥に移動させないとキャリパーを装着できません。ピストンを奥に戻すには、以下のツールを使用します。また、奥に移動させるとキャリパーからリザーブタンクにフルードが逆流しますが、この時にフルードが溢れださないよう、予めフルードを少し抜いておくとよいでしょう。
ネットを見ると、スライドピンにグリスを塗布する?しない?の論争がたまにみられますが、私は塗布しません。BMWの公式TIS (Technical Information System)には、Only clean guide bolts; do not grease、つまり、グリスを塗布しない清浄なガイドボルトを使用しろ、と明記されているからです。
なお、スライドピン (7mmヘキサゴン)の締め付けトルクは30 Nmです。ブレーキは安全運行の要のパーツですので、しっかりとトルク管理をしましょう。
トルクレンチは、デジタル式のものよりも、機械式のもののほうが規定トルクに達した時にクリック感がしっかりと手に伝わり、トルク管理しやすいように思います (評価やレビューでも、機械式を推すものが多いように思います)。
20-100 Nm (9.5sq)、40-280 Nm (12.7sq)のレンジをカバーする2本があれば、エンジン整備から足回り整備まで、ひとととおりのトルク管理が可能です。安物ではなく、トルク校正のされた信頼の東日製作所の製品をおすすめします。
続いて、リア側の分解整備に移りましょう。
基本的な作業はフロントと変わりませんが、リアブレーキが電動パーキングブレーキを兼ねている車両ではひと手間がプラスされます。
それは、診断機等のデバイスを利用してブレーキピストンを奥に移動させるひと手間です。
デバイスを利用せずとも、ピストンを反時計回りに回すとか、電動ユニットを外してピストン裏のヘキサロビュラネジを回すとかでピストンを奥に移動させる方法はあるようですが、私はいつもCarlyというドイツ製のシステムを利用しています。
(英語でのやり取りが苦にならない方は、本国から直接購入した方が安価で入手できるようです)
Carlyを使ってブレーキピストンを奥に移動させる手順を、順に追っていきましょう。
まず、OBD ⅡコネクターにCalry専用アダプターを挿し込み、スマートフォンとWiFiで接続します。(Carlyは、Androido、iOSのいずれにも対応しています。)
接続出来たら、MaintenanceメニューからBrakeを選択します(Fig. 1)。
すると、Electric Parking Brakeについて、サービスモードに入ったり(enter)、出たり(leave)すること、およびキャリブレーションができることが表示されます。Continue to parking brake control をクリックすると(Fig. 2)、Fig. 3が表示されます。ここでEnter Service modeをクリックします。
サービスモードに入ることに成功すればFig. 4の表示が現れ、イグニションをオフにしてブレーキ整備を実施してよいこと、整備が完了すれば再びイグニッションをオンにしてサービスモードから脱出できることが表示されます。
ブレーキ整備が完了すれば、イグニッションをオンにして、Fig. 3でLeave Service modeをクリックします。すると、Fig. 4の表示が出ます。Fig. 4ではブレーキシステムのキャリブレーションができること、その手順が表示されます。キャリブレーションというのはパーキングブレーキモーターの位置校正のことで、例えば古いパッド(パッドが薄い)を新品(パッドが厚い)に交換したときなどに必要となる調整です。何も難しいことはなく、ただパーキングブレーキをかける時と同様にパーキングブレーキスイッチを押し上げ、赤色のLEDが点灯するまで待ちます。その後イグニッションをオフにし、30秒以上経過してからイグニッションをオンにすれば、校正が完了します。
校正が完了すれば、サービスモードから脱出できたことが表示されます(Fig. 6)。
以上が、ソフトウェアの説明です。
実際の整備内容は、実質的にはフロントとほとんど変わりません。
違いは、
① リアにはキャリパー固定のバネがないこと、
② キャリパーの分離はスライドピンを抜くのではなく、固定ボルト (13mmボルト。ねじ止め剤が塗ってあり、硬いです)を外すこと、
くらいです。
BMWのブレーキパッドセンサーについて追記します。
BMWのブレーキパッドには、パッドセンサーを装着する切り欠きがあります。ブレーキパットが規定厚さ以下になるとパッドセンサーが削れて内部の配線が断線し、ブレーキシステム異常の警告が発せられる仕組みです。
F10の場合はフロントは左側、リアは右側のパッドにブレーキパッドセンサーが装着されています。ブレーキ分解整備の際はこれらセンサーを外すことになりますが、組付けの際は必ず元通りにセットするようにしてください。
最後に、ホイール/ハブの固着防止について。
ホイールは、ホイール側の窪み(凹)とハブ側の突起(凸)を嵌合させ、そのうえでホイールボルトで締結するようになっています。このホイールとハブの凹凸はかなりしっかりと、つまり隙間なく嵌合する上に、ハブの凸は容易にサビてしまいます。こうなると、ホイールボルトを外してハブからホイールを外そうにもびくともしない、ということになってしまいます。
これを防止するために、ホイールとハブの凹凸にスレッドコンパウンドを塗布しておくことをおすすめします。サビ防止、摺動性付与の2つの効果で、スムーズにホイールを外すことができます。
今回の分解整備で、ブレーキパッドグリースを使い果たしてしまいました。
これまでごく普通の安価なグリースを使ってきましたが、半年ほどでグリースが流れ落ち、かすかにブレーキの鳴きが聞こえるようになってきていました。もっと長持ちするグリースがないか調べていると、信頼のWako’sからよさそうな製品を見付けました。まるで餅のごとくの高粘度で、鳴きをしっかりと、長期間とめてくれると高評価です。少々高価ですが、使用量はごく少量ですのでかなり長く使えるでしょう。早速購入しました。次回の整備が楽しみです。
別記事で、ブレーキフルード交換方法もご紹介しています。併せてご参照ください。
その他、BMWのレギュラーメインテナンスについてはこちらでご紹介しています。
今回は、ここまで。
次の機会にお会いしましょう!
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