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バイクのブレーキフルード交換手順 -BMW R1250GSを例にとって-

修理・点検・メンテナンス

 ブレーキフルードは、ブレーキレバーを握った力をブレーキキャリパー内のピストンに伝える液体です。  

 ブレーキオイルともよばれますが、ポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とした液体で、以下に特徴等を記載します。  

ブレーキフルードに求められる特性
・極低温下でも凝固せず、ブレーキパッドから伝わる数100℃の温度でも沸騰しないこと
・シール類を傷めないこと  

ブレーキフルードの劣化により生じる危険
・吸湿性の高いグリコールが湿度を吸う    
→ 湿度(水分)により、主成分中のエステル結合が加水分解し、(分子量が下がった結果)沸点が下がる   
→ 沸点が下がった結果、ブレーキパッドから伝わる熱でフルードが沸騰、べーパーロック現象が起こる

 べーパーロック現象というのは、ブレーキパッドからの熱でフルードが沸騰 (液体中に泡が発生)した結果、ブレーキを握った力が泡に吸収されパッドに伝わらなくなる、つまりブレーキを握ってもスカスカでブレーキが効かなくなる、考えただけでも恐ろしい現象です。  

 これを防ぐ唯一の方法が、定期的なブレーキフルードの交換です。  

 一般的には1~2年ごとの交換が推奨されており、車検のあるバイクではそのタイミングで交換されることが多いでしょうが、車検や定期点検の義務のない小型バイクでは長年放置され、極めて危険な状態になっているものも多いでしょう。ぜひ一度、点検、そして必要な場合は交換を実施してください。

 ブレーキフルード交換に要する工具は少なく、作業もカンタンです。

 BMW R1250GSを例にとって、順を追ってみていきましょう。  

 まず、バイクを水平に保ちます。

 センタースタンド付きのバイクであれば、センタースタンドでバイクを固定すればOKです。

 次いで、フロントブレーキのリザーバータンクのキャップを開けますが、万一ブレーキフルードをこぼしバイクの塗装に付着すると塗膜を犯しますので、周辺をしっかりと養生し、塗膜に付着した場合にはすぐに洗い流せるよう、洗浄用の水を準備しておきましょう。

 キャップを開け、ゴムのメンブレンを外せばフルードが見えます。

 このフルードを、シリンジやオイルフィラーボトルなどを利用し吸い出します。

 空になったリザーバータンクに、新しいフルードを注入します。

 この新しいフルードでシステム内の古いフルードを押出し、ブレーキシステム内を新しいフルードで満たします。

 ここで、重要な注意点があります。

 「新しいフルード」と書きましたが、前回、つまり1年ほど前に開封した新品フルードの残りを使用してはいけません。必ず、未開封の新品を用意してください。

 開封後1年も経過すれば、(例えしっかりキャップを締めていたとしても)フルードは缶内の湿気を吸って劣化している可能性が高いからです。

 BMWのリザーバータンクのキャップには、”use a sealed flued (封緘されたフルードを使え)”と明記されています。

 個人的には、缶内に残る湿気などごくわずかで、それによる劣化など無視できるレベルだとは思うのですが、ブレーキは命に関わるパーツですし、フルードもそう高価なものではないので、交換の都度に新しいフルードを準備し、残った分は廃棄してしまうのがよいでしょう。

 フルードについて、BMWの場合は純正品を入手することもできます。

 ただし、純正品の購入単位は1L。対して、ダブルフロントディスクブレーキを装着した私のR1250GSでも、交換に必要なフルードの量はわずか200mLに過ぎません。

 であれば、オイル製品の品質で定評のあるMOTUL社製の500mL梱包品を購入する方が、割安で済むでしょう。

 フルードを選択する場合、注意するのはメーカー指定のDOTを守ることです。

 DOTというのはブレーキフルードの沸点や粘度の規格で、数字が高い方が高性能になります。公道用のバイクの場合、多くがDOT4規格のフルードを指定しているはずです。ここで、DOT5の方が性能が高いのであれば、メーカー指定がDOT4であってもDOT5のフルードを使いたいという方もいらっしゃるかもしれませんが、これは絶対にNGです。DOT4がグリコール系であるのに対しDOT5はシリコーン系、そしてこのシリコーン系のフルードはゴム類を犯すため、専用に設計されたブレーキシステムでしか利用できないのです。ブレーキフルードの規格は上記互換も下位互換もなく、指定通りの規格品を使用することが大原則です。

 また、この交換方法ではABSシステム内のフルードは交換できません。

 新旧フルードの入れ替えは、ブレーキを握った状態でキャリパーのブリーダープラグを緩め、プラグから旧フルードを排出しますが、この時イグニッションはオフの状態です。作動時以外はABSシステム内のフルードは排出されないことが、システム内のフルードを交換できない理由です。

 特定の診断機、例えばMotoScanを使えば、フルード交換時に強制的にABS油圧ポンプを作動させ、システム内のフルードも排出させることができますが、通常のフルード交換の際にはそのような手順は不要と、MotoScan自身も表示しているくらいですから、あまり気にする必要はないでしょう。

 フルード交換後に、前後ともにABSをしっかり作動させてやれば、システム内のフルードは新しいものに入れ換わるでしょう。  

 話を元に戻しましょう。

 リザーバタンク内を新フルードで満たしたあと、ブリーダープラグに8㎜のメガネレンチをかけ、ブリーダープラグに排出ホース、および排フルード受けを接続します。

 今回私は排フルード受けをペットボトルで代用しましたが、市販されたものの方が安定性がよく、はるかに効率よく作業できるでしょう。

 ここまで準備ができれば、あとはブレーキを握りながらブリーダープラグを緩めて旧フルードを排出 (ブレーキを握った状態で、クッ、クッ、クッと、3度ほどプラグを開け閉めするとよいです)する工程を繰り返します。

 すると、新旧フルードが入れ替わったところで、排出されるフルードの色が旧フルードの薄黄色から新フルードの透明色に変わりますので、そこでそのラインのフルード交換は完了です。  

 こちらはリアの例ですが、排出されるフルードの色が全く異なることがわかります。

 プラグを規定トルクで締め(オーバートルクだとすぐにネジがつぶれてしまいます。十分ご注意を)、ホースを外し、プラグ周辺をパーツクリーナーで洗浄し、プラグにゴムのキャップを装着して終了です。

 ダブルディスク装着車(フロントにキャリパー、ローターが2組装着されているマシン)なら、もう片方のシステムにも同様の作業を実施します。

 リア側についても、ブレーキを握るか踏むかの違いだけで、作業内容はフロント側と全く同じです。

 リアのリザーバタンク内のフルードについて、ビフォー/アフターの比較です。

 色が全く違いますね。約1年で、これほどまでに劣化してしまいます。

 私がやってしまった失敗談を一つ。

 BMW R1250GSのフロントキャリパーの場合、15㎜のバンジョーボルトにネジが切られ、8㎜のブリーダープラグが装着されています。

 私はバンジョーボルトがブリーダープラグだと勘違いをし、ブレーキレバーを握ると同時にバンジョーボルトを緩めてしまいました。

 ええ、旧フルードはホースに排出されることなく、バンジョーボルトの隙間からガッツリとダダ漏れるだけでした。

 ブリーダープラグの規格は、M7×P1.6、M8×1.25、M10×1.25の3つだそうです(アメ車や旧車は、違うかもしれません)。ご注意ください!  

 ここまでが、ブレーキフルード交換の手順です。  

 慣れてしまえばどうってことのない作業ですが、ブレーキは命に関わるパーツですので、構造や作業手順をよく理解したうえで実施してください。  

 最初は、慣れた方と一緒に作業されるのがよいでしょうね。

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