大山崎といえば、サントリー山崎蒸留所。
したがって、その近辺に企業のスパンサードなる美術館があるとなれば、当然サントリーだと思っていました。
でも違いました。大山崎山荘美術館のスポンサーは、アサヒビールでした。
大山崎山荘は、大正から昭和初期に実業家 加賀正太郎が別荘として設計した英国風の山荘です。加賀家の手を離れたあと平成に取り壊しの危機に面しましたが、アサヒビール株式会社が山荘の復元整備を行い「アサヒビール大山崎山荘美術館」として蘇りました。
ここに展示されているのは、現アサヒビールの初代社長山本為三郎が収集した国内外の工芸の名品が主です。山本為三郎は昭和初期に柳宗悦らによって提唱された民藝運動の理解者で、その生涯に亘り運動を支えたそうです。館内に本美術館で開催された過去の企画展のポスター群が掲示されていましたが、どうりで民芸に関する企画が多いわけです。
民藝運動や民芸品を蒐集・展示する大阪日本民芸館については、こちらの記事をご参照ください。
私が訪れた日、「和巧絶佳 (わこうぜっか)展」なる企画展が開催されていました。副題は、「令和時代の超工芸」です。
このポスターの目玉となっている朱色の物体、何だと思いますか?
私は技巧の凝らされたペン立てだと思っていましたが、実は靴なんです。舘鼻則孝氏の手になる”Heel-less Shoes”という作品で、実際にレディ・ガガ等の著名アーティストがそのパフォーマンスで使用しているそうです。舘鼻氏は江戸時代のファッションリーダー的存在であった花魁に着想を得た作品を世に送り出す現代の工芸家で、いくつかのHeel-less Shoesや簪 (かんざし)に着想を得た作品が展示されていました。
舘鼻氏のほかにも、高橋賢悟氏の手になる超技巧的な細工、橋本千穀氏の手になる新しい蒔絵技法の提案、坂井直樹氏の手になる素朴な鉄細工など、現代の工芸人による新進気鋭の作品が目白押しでした。現代の作品らしく、大雑把な造形ではなく細部の技巧に特徴を持たせた作品が多く、ギャラリースコープ (単眼鏡)を持参して仔細までをも愉しむことを強くお勧めします。肉眼で全体を観るのとは異なる世界が、スコープの中には拡がります。
企画展を充分に愉しんだ後、本館2階の常設展を見学します。ここには、山本為三郎が蒐集した民芸の一級品が所狭しと展示されています。特に私が気に入ったのは、1783年蒐集のハンガリー王・王女図鉢です。まるで絵本で描かれているような、ユーモラスでのどかな王様、王女様の図柄が心を和ませます。
本館1階と2階をつなぐ階段の途中のステンドグラスや、アンティークの時計やオルゴールもなかなか見応えがありました。これらも決して一品物として特別に誂えられた作品ではなく、あくまでも実用の道具です。これらを通じて、民藝運動において提唱された「用の美」をよく理解することができます。
さて、本館を離れ安藤忠雄の手になる地中館「地中の宝石箱」に向かいましょう。
ここには民芸品ではなく、一級の西洋画コレクションが展示されています。圧巻なのは、印象派の巨匠 クロード・モネによる3枚の睡蓮の油絵です。モネの睡蓮はつとに有名ですが、ただ1枚の睡蓮の画が有名なのではありません。睡蓮はモネが好んで描いたモチーフの一つであり、「モネの睡蓮」は何十枚も存在し、世界中の美術館に展示されています。私は国内外のあらゆる美術館で「モネの睡蓮」を鑑賞してきましたが、この美術館に展示されていた睡蓮にはほかにはない特徴があるように私は思いました。それは、色使いです。淡い色合いで輪郭もどちらかというと柔らかな印象の作品が多い中、こちらの睡蓮の色は強いワインレッドかと思うほどにビビットで、ほかのどの睡蓮よりも輪郭がシャープであるように思いました。「へー、こんな睡蓮もあるんだ」と、多くの睡蓮を観る機会に恵まれた私にとってもとても新鮮に感じられる作品でした。
地中の宝石箱には、モネ以外にもパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ルオーほかの油絵、それから民芸運動の旗手としても著名な河井寛次郎の練上鉢などが展示されていました。河井寛次郎の工房兼自宅はいまは資料館となって公開されているようですので、折をみて訪ねたいと思います。
この美術館、素晴らしいのは収蔵品だけではありません。建物も、庭も秀逸なのです。
この山荘の敷地の入口にはトンネルがあり、そこを抜けてからこんな路を辿り、山荘の入口にまで至ります。山荘に入るまでに、すでにワクワクでイッパイになります。
最後に、この訪問時の展示作品リストをこちらに掲載します。
詳細は、同館のホームページでご確認ください。
今回は、ここまで。
次の機会にお会いしましょう!
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